著莪

 

 あの白い花は咲いたかな
 春に咲くっていう 蝶々に似た白い花
 あのころ君が庭に植えた
 蝶々に似た 白い花

 公園の大きな滑り台に 背中合わせで座った日
 何もしないで ただ沈みゆく夕陽を眺めていた
 あの時、君を何を見ていたの?
 僕の後ろにある 僕らの影を見ていたんだろうか
 それとも僕の背中にもたれて いつもどおりに脚を組んで
 文庫本でも読んでいたの?

 君と歩いたたくさんの道
 今 思い出しながら ゆっくり歩いてみる

 夢を追いかけて 旅立った君が
 あの時見ていたものを 感じに行こう

 小さいころから一緒だった 君と僕は
 “大人”になって 別々の道を選んだ
 僕は この街で生きていくことを
 君は より大きい街を駆け抜けることを
 共に過ごした多くの時間を 忘れることはないにしても
 今この時 確かに 君と僕は
 同じ星の上で生きているとしても

 僕の歩くこの道は 君の街に続いているだろうか

 夕陽を見る度 あの日の背中の 重みとぬくもりを思い出す
 君も、そうなんだろうか?
 公園の大きな滑り台に 背中合わせで座った日を
 それとも君は 夕陽を見ることもできないくらい
 夢に向かって走っているの?

 あのころ君が庭に植えた
 春に咲くっていう 蝶々に似た白い花
 あの白い花が咲いていた
 蝶々に似た 白い花

 もうすぐ 夏が来る

 夕立の庭で
 乾いた心地よい 掌の音と共に
 僕らは
 遠く遠く 離れていった